志のある韓国映画を観ようと思うと、自主上映会や映画祭に出向くこともしばしばですが、そのたびに思うことがあります。それは「日本語字幕を作るのに、SSTを使おう」ということ。
SSTとは、わが西ヶ原字幕社でも日々活躍するカンバス社の字幕制作ソフト。放送局やDVDメーカーなどの業界内部ではおなじみですが、一歩業界の外を出ると、浸透度は著しく低いのが現状です。
先日も、とある映画祭で映画を観ましたが、字幕がアバウトなのが気になって仕方がない。SSTを使えばもっと精度の高いものができるのに、なぜ使わないのだろう。価格が高いせいで、敷居も高いと思われているのだろうか?
思えば昨年の「南営洞1985」上映会。後発組の私が実行委員に加わった頃には、字幕入りの映像はできていました。その作り方を聞いて唖然。後述しますが、技術的に恐ろしくローテクで、手間のかかる方法で字幕を付けていたのです。これでは、字幕がきれいに出るわけがない。SSTを使えば、おそらく100分の1の労力で、10倍きれいな字幕入り映像を作れます。
おそらく、字幕翻訳者は映像編集を知らず、映像編集者は字幕翻訳を知らないことが、こうした事態を招いている――両方やる私はそう声を大にして言いたい。そこで今日は、映画祭や自主上映会などに関わる人に向けて、使っている人には周知の事実、使っていない人にも知ってほしい、SSTを使った字幕入れ作業を概説します。
最初に2つ前提を。世の中では「字幕」と「テロップ」を区別せずに使っていますが、ここでは次のように区別します。
「字幕」とは外国語の音声に対する訳文として画面に出すもの、とします。一方の「テロップ」は、画面の状況を説明したり、演出的に面白さを強調したりと、装飾として出すもの、とします。
もう一点。字幕であろうとテロップであろうと、映像に文字を重ねるには編集作業が必要です。10年ほど前までは、「卓」と通称される、テレビ局にしかないような高価な編集機材が必要でした。ところが近年、ファイナルカット、エディウス、プレミアといった、パソコンの編集ソフトがその代わりをできるようになりました。現在、SSTを使おうが使うまいが、字幕入れの作業の9割方は、編集ソフトを使って行われています。
本題です。SSTを知らない人が字幕をつけようとすると、端的に言って、テロップと同じ要領で「字幕」を入れようとするのです。今や無料の編集ソフトにさえ、テロップ(タイトルという呼び方もします)を入れる機能がついています。「字幕」と「テロップ」を同じものだと思っている人は、この機能で「字幕」を入れられると考えてしまいます。実際、やってやれないことはないですが、それこそ、とんでもなく手間のかかった、美しくない字幕の元凶です。
どの映像編集ソフトも、タイムラインという時間軸上に映像や音声を並べます。ここでテロップ機能を起動させると、「○分○秒から△分△秒まで××という文字を、どういうフォントで画面上のどこどこに表示する」という指定を、いちいちするよう求められます。装飾としてのテロップならば、フォントや位置もその都度変えられたほうがうれしいですが、一定の場所やフォントで淡々と出したい字幕にとっては、無駄な手間です。10個や20個なら、無駄もそれほど苦になりませんが、百個なら?千個なら?単純作業に耐性のある私でさえ、考えただけで嫌になります。
さらに「○分○秒から△分△秒まで」という指定も、「字幕」にとっては大まかすぎます。画面の説明である「テロップ」なら、だいたいその辺りに出ていればいいでしょう。しかし「字幕」は、外国語の音声に対して出すもの。通常は音声の始点や終点を、1秒の30分の1の「フレーム」という単位で指定します。このフレーム単位の微調整をテロップ機能でやろうものなら、2時間の映画1本で数十時間が飛びます。
一旦まとめます。「字幕」と「テロップ」は、画面に文字を重ねる点では共通ですが、性格は違います。映像編集ソフトのテロップ機能は、音声に対してきれいに、そして淡々と文字を重ねたい、字幕入れの用途には不向きです。
そこでお勧めしたいのが、SSTで作ったデータを編集ソフトに読み込ませるという方法です。詳しい手順は省略しますが、結論だけ言うならば、字幕のテキストを画像データに変換し、タイミングデータに従って自動的にタイムライン上に並べてくれるのです。あとは元の(字幕の入っていない)映像をタイムラン上に置き、重ねてやれば完成です。
SSTでは、タイムラインに音声の波形が表示された状態で、カーソルをフレーム単位で操作して、字幕の出入りのタイミングをマークできるので、音声に対してきれいに字幕が出るよう、タイミングデータを取ること(スポッティングとかQ打ちと言います)ができます。スポッティングを取ると字幕入力欄ができ、そこに文字を入力すると、モニター上にも表示されます。こうして作ったデータを編集ソフトに読み込ませれば、「○分○秒から△分△秒まで」といちいち手入力する手間も、ズームスライダーをちょこちょこして微調整する手間も、一切いりません。
「もうひとつの約束」の字幕入れも、この方法でしようと、以前知り合ったビデオジャーナリストに作業をお願いしたのですが、「SSTはよく分からない」と言われ、断られました。こちらがSSTでデータを作れば、彼の作業なんて、タイムライン上で重ねて書き出すだけ。結局、業者に頼みましたが、マスターがHD(高解像度でデータ容量が重い)でなければ、06年購入のうちのおんぼろ編集ソフトでもできることです。ああ、HDがサクサク編集できるマシンが欲しい…。
言葉で説明しても、なじみのない人にはなかなか伝わらないと思います。ただ、私が言わんとすることは、「低予算で意義あることをやろうと思うほど、新しい技術に目を向けよう」ということです。皆さんがDVDやテレビで見るような、音声に対してきれいに出る字幕を付けるのは、今や決して難しいことではありません。確かに、ほんの10年前までは、2千万円くらいする専門機材がないとできないことでしたので、「そういうのはプロに頼まないとダメでしょ?うちはそんなお金ないんだ。厚意で字幕付けてくれる知人がいるから、その人に頼むよ」と考えるのも無理はありません。でも、コンピューターの性能は日進月歩。新しい技術を使えば10分で済む作業を、知人は10時間かけてやっているとしたら?彼に払うご苦労さん代10万円は、心得のある人に頼めば5万で済むかもしれません。
私も、自主上映会のごときボランティアで運営する催しに、プロ的なものを持ち込むことに抵抗がないわけではありません。また、身の丈に合わないことをする必要もないと思います。手弁当もまたよし。音声に対してきれいに出ない字幕も、それで見た人が満足なら、揚げ足を取るつもりはありません。でも、字幕入れにSSTを使おうという提言は、そのいずれでもありません。安くて短時間に、きれいな字幕を付ける方法があるよ。皆さんもぜひ、ということです。
問題はSSTが高価だということです。断言しますが、SSTというソフトをまだ購入していない人に、購入を勧めることは断じてしません。SSTは字幕データを売り物にする商売以外では元が取れません。あなたがまだ購入していないのは、そこに該当しないからです。うちが編集用パソコンを新調できないのと同じです。
では、どうするか。SSTを持っている人を探して、協力してもらうのです。SSTは個人翻訳者でも所有していますので、業者に頼むほど構えなくてもいいでしょう。ただ、個人翻訳者の中には、字幕データを作ることに留まって、編集ソフトに読み込ませるといった工程を知らない人もいます。まあ、そういう時は西ヶ原字幕社にご連絡ください。なるほど、コンサル業ってこういうことか!
アジア図書館で「セシボンから読み解く韓国ロック事始め」という講演をしました。
キム・ヒョンシクが男前で大酒飲みでケンカが強かった、みたいな話をしたら、
早速お客さんが画像検索をしてくれました。
「歌っている人の顔を見ると、親しみがわく」と言われ、
VAMPの韓国ロックデーで、「東亜企画絵巻」なるものを配ったことを思い出しました。
原寸大でアップしておきますので、ご活用ください。